龍谷大学文学部博物館実習室では、学芸員課程の集大成として毎年12月に展覧会を開催しています。担当教員の指導のもと学生が主体となり、学んだ知識や技術を活用して展覧会の企画・調査・準備・運営等の学芸員の実務を実践します。
今回で45 回目となる十二月展のテーマは、「幻 ―架空の生き物に込めた人々の想い―」です。
架空の生き物にまつわる伝説は古くから存在し、それらは地域文化の中で形作られ、現在でも各地で伝えられています。本展では、さまざまな伝説がどのように生み出され、変遷をたどってきたのかを、架空の生き物が登場する場と結び付けて解き明かしてまいります。
架空の生き物が織りなす幻想の空間へと皆様をいざない、「幻の世界」を余すことなく体感していただける機会となれば幸いです。
海は古来、漁撈などを通じて人間の生活に密接に関わり、様々な恵みをもたらしてきた。しかし、それと同時に、海難事故や災害などの原因になり、災いをもたらす怨霊のような存在として恐れられていた。また、人間が暮らす陸に対して、人間が生活することのできない海は、未知なるものが潜む「異界」としての一面ももつと考えられてきた。
このような海に対して人間は、豊漁や航海安全、雨の恵みを祈願し、畏怖の念や未知への好奇心を抱き、様々な幻の生き物を創造してきた。例えば、『諸国里人談』には、人魚が神と人間の境界の象徴として神聖視されていたという事例がある。
本章では、人魚や河童などの水辺に関わる幻を描いた『北斎漫画』や、幻の生き物への信仰を象徴する錦絵「観音霊験記」、海にまつわる話である浦島太郎の伝説に基づいて制作された「浦島太郎人形」などを紹介し、それらに込められた思いを探っていく。
かつて、人々は地上だけでなく空も幻が現れる場所と考え、それらの幻を時に畏怖の対象として、時に吉報を知らせる存在として様々な形で表現してきた。
例えば、『延喜式』では、祥瑞に関する記述の中で「三足烏」は「日之精也」という説明があり、三足烏が太陽とともに現れる吉鳥として崇められてきたことがわかる。また、『玄同放言』においては、空から現れる幻である「雷獣」の独特な姿や生態が図とともに説明されている。本章では、こうした空の幻に関する文献や祭祀具などを取り上げている。さらに、大陸から日本に伝わった空の幻として、「龍」や「天馬」も紹介している。「龍」は中国から伝来したとされ、日本でも神聖な存在として知られる。「天馬」はシルクロードを経て中央アジアから日本に伝わったとされており、「双天馬双鳳紋八稜鏡」には天を駆ける二頭の天馬の姿が表現されている。
日本に昔から伝わる幻や大陸から伝わった幻について、過去の人々はどのように解釈し、表現してきたのかを本章を通じて明らかにしていく。そして、人々が空の幻に対して何を望み、そこから何を得ていたのかを紐解いていく。
山は古くから霊妙で幻想的な場所とされてきた。そして、人々はその神秘に魅了されると同時に、恐れも抱いてきた。そのため、山で起こる出来事は架空の生き物の仕業として捉えられることもあった。そうした出来事は語り継がれて伝説となり、様々な文化を通して日本各地に伝えられている。
嵯峨大念佛狂言の演目『土蜘蛛』で使われる能面「三光飛出」は、こうした伝説が能や狂言を通じて伝えられてきたことを示すものである。また、鞍馬寺の門前で販売されていた天狗の張子面は、鞍馬天狗の伝説が人々に広く親しまれてきたことを象徴している。さらに、延暦寺に起源をもつ角大師は、その伝説が信仰の一部として今日まで受け継がれている。角大師は延暦寺以外の寺院でも祀られており、各所で角大師護符が頒布されている。このことは、角大師の伝説とその信仰の広がりを示している。
このように本章では、山にまつわる架空の生き物とその伝説を日本の文化とともに紹介している。本章が、こうした伝説に少しでも親しみをもつきっかけとなれば幸いである。
京の都に住む人々は、目には見えない災厄の元凶を「オニ」と呼び、恐れてきた。本章の前半では、人々が災厄に対処する過程で具現化した様々な「オニ」の姿を紹介する。続く後半では、「オニ」の図像が次第に今日イメージされる「鬼」の姿へと統一され、物語や娯楽の対象として人々に受容されていった様子を紹介している。片仮名と漢字を使い分け、「オニ」と「鬼」の二つの表記を用いているので、表記の違いを通して「オニ」から「鬼」への変遷を感じ取っていただけると幸いである。
また、様々な面から鬼について知ってもらうため、鬼として有名な酒吞童子に関する資料のほか、人面墨書土器や鬼瓦などを取り上げている。本章を通して、普段私たちが想像するのとは少し異なる面から鬼について知り、今日の文化との密接な関係に触れることで、都の人々に思いを馳せていただきたい。
2024年12月4日(水)~12月7日(土)
10:00 ~ 17:00
※最終日のみ16:30まで
(入館は閉館の30分前まで)
無料
龍谷ミュージアム2階展示室、
龍谷大学大宮キャンパス本館
今年の十二月展では、展覧会内容に合わせたイベントを大宮学舎本館(重要文化財)にて開催します。本展で紹介された架空の生き物の出身地を地図で示し、その生き物たちを学生が描いた絵とともに紹介パネルとして展示します。ご来場いただいた方には紹介パネルのカードを配布しておりますので、ぜひお立ち寄りください。
10:00~17:00(入場は閉館30分前まで) ※最終日のみ10:00~16:30
(〒600-8268 京都市下京区七条通大宮東入大工町125-1)
龍谷大学大宮学舎
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