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Ryukoku Museum

龍谷ミュージアム

館長からのメッセージ

ダイバーシティとミュージアム

龍谷大学創立370周年事業の一環として龍谷ミュージアムが開館したのは、2011年4月のことです。以来、大学博物館の枠を超えた「街に開かれた仏教総合博物館」をコンセプトに、さまざまな展覧会を開催してきました。

いま、私たちが生きる世界は、残念ながら“安穏”と言いがたい状況にあります。開館直前に起きた東日本大震災、2020年からつづくコロナ禍、さらにはロシア軍によるウクライナ侵攻……。しかし、こうした時代だからこそ、SDGs(地球規模の諸課題を解決して危機を脱すべく、国連が掲げた2030年までの「持続可能な開発目標」)達成に向けた取り組みが切実に求められているのでしょう。「この星にづる他なき地虫かな」(額田浩文)。

先般、龍谷大学は「龍谷大学カーボンニュートラル宣言」(2022年1月)と「龍谷大学SDGs宣言」(同2月)を発出しました。宣言では、「自省利他」の行動哲学に基づく「仏教SDGs」の推進をとおして、持続可能で平和な世界の実現のために本学が主体的に貢献していく決意を表明しています。そもそも、SDGsの理念である「誰一人取り残さ(れ)ない」は、「摂取不捨」、つまり阿弥陀仏が「すべての生きとし生けるものを決して見捨てない」と誓われた心に通じるものです。

「誰一人取り残さ(れ)ない」社会、それは多様性を尊重し包摂した社会です。この「ダイバーシティ&インクルージョン(Diversity and Inclusion)」は、社会全体の大きな課題です。公共文化施設であるミュージアムも例外ではありません。とくに、仏教文化の多様性をより多くの方々に伝えるという使命を帯びる本館にとって、その重要性はきめて高いものと思われます。「だれでも仏教文化の多様性に触れることのできる」ミュージアムとして、よりよい平和な世界に資することが私たちの願いです。

近年、STEM教育からSTEAM教育への転換が叫ばれています。Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字からなるSTEMにArtを加えたものがSTEAMです。つまり、いま、アートの力が問われているのです。たとえば、アンビエント・ミュージックの第一人者であるブライアン・イーノは、「(自分の生きる世界とは)異なる価値観や関係性」などを経験させてくれるのがアートだと言います(「ウイルス後の世界を考える」『コロナが変えた世界』Pヴァイン、2020年)。多様性との出会い、自分を異化するものとのふれあいの経験こそがアートなのでしょう。

そのような幸運な出会いセレンディピティをめざしてコンテンツをキュレートし、「一座建立」の精神で提供、演出するのがミュージアムの役割です。龍谷ミュージアムは、これからも仏教文化の多彩な魅力と価値をみなさまに経験していただけるよう、努力してまいります。

龍谷大学 龍谷ミュージアム
館長 安藤 徹